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2007年3月 2日 (金)

続・ビラ男の一生

私が11月に書いた「ビラ男の一生」の続編を待つ読者が多いことは、私なりに十分に分かってはいた。(↓「ビラ男の一生」)

http://kanpasu2004.cocolog-nifty.com/blog/2006/11/post_75fd.html

読者の皆さんが知りたいのは、その後の「ビラ男」の様子であろうと思う。では、本題に入る。

 昨日の夕方、何となく暇をもてあましていたハマちゃんとTマナブ君をつかまえて、私はこういった。「明日のみんなの予定を組んでよ。二人が組んだ予定にみんな従うから。俺もその通りに動くよ。」

 ホワイトボードを全部消して、Tマナブ君が書き始めた。「ピザーラ」「味ぎん」「議会報告」「長野ビラ」「ゼンドー」…。まず明日やるべき仕事の項目から書き始めていた。それはとても正しい。しかしTマナブ君は、その先が浮かばずに悩んでいた。そこにハマちゃん登場。業務日誌や取引先事業所の業務依頼書などを読み始め、誰がどの仕事をするのか、エリアや規模をどうするのかまで考えて書き始めていた。(Tマナブ君に書かせていた。)

 そこで最初に書いた名前が「つかもと」(仮称)。

 私はすぐに分かった。「この『つかもと』(仮称)というやつは、ビラ男のペンネームに違いない。みんなはまずビラ男の仕事から考え始めるということだ。」

 さすがビラ男の人望は厚い。「みんなの仕事の予定を組んで」と指示された仲間たちが最初に組んだ仕事が、なんとビラ男の仕事だった。

それにしてもハマちゃんの構想は奥が深い。藤崎5丁目には最近できた大きなマンションがある。その大きなマンションを竜君ならば管理人との交渉を避けて飛ばしてしまうだろう。だから5丁目には自分が入り、竜君には6丁目に入ってもらう…。そこまで計算された予定だった。逆に言えばそこまで考えることのできるハマちゃんが最初に考えたのが、ビラ男の明日の動きだったということだ。そしてホワイトボードの下のほうに、本当に小さく「ともの」と書いてある。しかも何の仕事が与えられたのかもよく分からない。情けで名前が入っているだけのようだ。こうして私は障害を持つ仲間たちから、半分「戦力外通告」を受けたのだ。

 私が年度末仕事・経理に追われている間に、ビラ男はさらにその人望を厚くし、凄みを増してきたようだ。

 昼休み、他の職員がタケシ君に「午後、ショッパー(地域生活情報誌の配布)頑張ろうな!」というと、タケシ君は「ヒーヒー」と不満を音声で表現し、「め・ね」と繰り返しいう。「め・ね」とは何かというと「めがね」のこと。そう、ビラ男のことを指しているのだ。その職員が「いいじゃん~。俺とやろうよ~」というとタケシ君はさらに悲鳴を上げ、「め~ね~!」と大声を上げる。「どうしてもビラ男と一緒じゃないと仕事しない」とタケシ君は言い放ったのだ。

 結局彼が折れて、ビラ男がタケシ君と仕事に行くことになった。

 その一部始終を見ていた私は仲間たちに聞いた。「何で、みんなビラ男君をそんなに尊敬してるの?」

 ハマちゃんは答えた。「いつもビラだから」「ビラ頑張っているから」。Tマナブ君に私は聞いた。

「この作業所で一番仕事頑張っている人は誰?」「つかもと君(仮称)だよ~」とTマナブ君。ここまで仲間たちに尊敬されているとは…。

 しかも単に尊敬されているだけでなく、愛されてもいる。その証拠にKマナブ君はいつもビラ男に向かってこういっている。「本当はつかもとさん(仮称)は、職員じゃないでしょう?」「竜さんとつかもとさん(仮称)がしゃべっていると、どっちが職員だかわかんないもん」。そういわれて笑顔で応えるあたりは、ビラ男の人間の深みのなせる業だ。

 今日の朝、私がタケシ君の送迎に入り車で迎えに行くと、タケシ君のお母さんがこういった。

 「昨日タケシ、つかもとさん(仮称)とショッパーやりたいって騒いだんでしょう?昨日つかもとさん(仮称)が嬉しそうに教えてくれたの。でもタケシはつかもとさん(仮称)を友達だと思っているみたい。タケシはつかもとさんといると楽しそう。きっと自分の思い通りにつかもとさんを動かしているんですよね」

 タケシ君ママよ、私も同感だ。こういう現場では、みんなにとって<ちょっと上の頼れる兄貴>という存在は絶対に必要だ。そしてそれは誰もがなれるものではない。天性(天然ではない!)のものを持っているということだろう。

 しかし私はずっと疑問を持っていた。ビラ男は本当に今の仕事がしたくてしているのだろうか。ビラ男の肩書きは「精神保健福祉士」である。私は面接の時「将来、精神保健福祉の仕事につながるために、ここで勉強したい」とビラ男が語っていたのを覚えている。「彼の仕事におけるニーズに私は応えられているのだろうか」。そう悩むこともある。形の上では<所長-職員>という関係であっても、要は人間関係。互いのニーズの接点なくしてはいい就労関係は維持できないからだ。

 ある日、酒の席を用意して、私はビラ男に単刀直入に聞いた。「今の仕事辛くない? なんでそんなに頑張れるの?」

 

ビラ男は答えた。「8月4日のことです。あの日は本当に暑い日で、ビラ配りをしている時、私もKマナブ君も完全にバテていた。倒れるかと思いました。でもタケシ君は違った。いつも以上に気合を入れて頑張っていた。その姿を見て本当に感動しました。こいつの根性はすげ~って、マジで思いました。タケシ君のこの気合と根性を発揮できるのがビラだとしたら、俺はどこまでもタケシ君に付き合い続けようって思ったんですよ。足が痛くて朝動けない日もありましたけど、もう慣れました。大丈夫です。」

ビラ男がタケシ君に感動したように、私もその話を聞いて「こいつの根性はすげ~って、マジで思いました。」

これが「ビラ男の一生」の続編です。

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