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2007年2月16日 (金)

福祉の仕事は楽しくいこう。

福祉の仕事は楽しくいこう。

いわゆる「成功哲学」系の文献を読むと、<発想の転換>のような例がよく出てきますよね。それはそれで「なるほどな」と思うのですが、では実践にどうつなげていくのかというと、それが結構難しい。

それは何故かというと<転換>するということは、軸が定まっていなければうまくできないからです。例えばジャンプして、着地する時に180度ターン(=転換)するとしましょう。それをうまくやるには頭を上げて直立の状態から始めますよね。体重の軸を真ん中に持ってこなければブレてしまい、うまくターンできないからです。前かがみになってターンするのは難しいでしょよね。

それと同じで<発想の転換>をするには、発想の軸をどこに定めるかということが実は一番肝心なのです。

障害者福祉の世界も同じです。最近障害者福祉事業の世界でもビジネスイデオロギーで福祉事業経営の発想を転換するといった類の催し物が多くあります。確かに<目からウロコ>という衝撃を覚える今までにない発想を教示されます。でもなかなか実践には活かせない。「活かせないのはその現場が悪いから」で福祉の現場が断罪される。

でも違うんですよ。それぞれの福祉現場にそれぞれの課題なり問題点があることは否定しません。しかし福祉には福祉の軸がある。そこに違う軸を持ってきて「さあ、ここでターンしなさい」といってもできるわけがないんですよ。そのことにそろそろ気付いていかないと、現場がメチャクチャになりますよ。

私の作業所が「○○西」という地域から「○○東」という地域に引っ越してきて丸二年。「○○西」では地域の中に(手前味噌のようですが)しっかりと根付いていて、「引っ越す」というだけでも大変でした。必要な場所として認知されていましたから、あちらこちらから「こっちに越してきて」「違うところに行かないで」と言われるのです。

私自身そのことに安住しすぎていたのでしょう。「必要とされて当たり前」という感覚に浸っていたのだと思います。

「○○東」への引越し。隣町ですから、当然のように歓迎されると思っていました。ところがどっこい…。「この道を障害者に歩かせるな。気持ち悪いだろう。」ちょっとのことで怒鳴りこまれたり市に苦情が入ったり…。当時私の不在時に新人職員がその対応をする羽目になったりして、いやぁ大変でした。

そのつど私が頭を下げに行って収拾するのですが、そういうことが繰り返されると、新人職員の意識がどんどん小さくなってしまいます。

うちの作業所のモットーは、障害者が地域で必要とされ、必要とされていることを各々が肌で感じ、威張って(胸を張って)生きていくことです。「職員」といわれる側の我々が「地域に何を言われるか」とビクビクしながらやっていたら困るわけです。

2年前私はその新人職員に言いました。

「面白くなってきたね。苦情をもらうと、内心ワクワクするんだよ。俺が何を考えて頭下げていたか分かる? 3年後には逆に頭を下げられるんだろうなあって思いながら、頭を下げてるんだよ。だからワクワクするんだよ。これまでの○○西地域ではなかなか味わえなかったことだよね。苦情なんてもらえなかったわけだから。その意味が3年後には分かるから。」

それから2年が経ちました。先日、うちの作業所がある地域でちょっとした問題がありました。うちの作業所も地域の方々の共同出資で作られた私道に面しているのですが、その私道の奥にアパートがあります。そのアパートのごみの出し方を巡って、地域の方々とアパートの管理会社が対立している。市も間に入っていますが、収拾がつきません。市指定のごみ収集車がこの私道に入って、何かあったときに責任の所在がどこなのかという問題があるのです。市道ならば、たとえば6トンにもなる収集車が入って道路が陥没したとき、その修理責任は市の側にあり、市が修理代を負担します。この道路そのものもそれほど丈夫でなく、6トン車では耐えられないだろうというのが多くの方の見解です。アパート住民とこの地域の方々の感情の問題にもなっています。

我々はその対立の輪に入りました。うちの障害を持つ仲間たちなら解決できると踏んだからです。公道で収集車が待機している間に、うちの力自慢の仲間たちが分担してその奥のアパートのごみを収集車まで運ぶことができる。その方法でまずは地域の方々が納得してくれて、さらにアパート管理会社と業務の契約が結べれば、関係者すべてにとっていい解決ができます。

その提案を持ちかけたところで、対立の輪は解けて輪は解散になりました。

以前「障害者はこの道をフラフラ歩くな」といわれた道で、彼らが頼られ頼まれることになりました。障害を持つ仲間たちが「お願いします」と頭を下げられる立場に立ちました。ここから先、本当の信頼をつかむか否かは仲間たち自身の頑張りですが、我々はそこには絶対の自信を持っています。だからこういう提案ができるのです。

「フラフラ歩くな」といわれた道で、「お願いします」といわれて胸を張って歩くわけです。そういう構想を描くことそのものを<発想の転換>というのであれば、その際の軸は「障害を持つ仲間たちそのものを主人公として考える」という福祉の世界ならではのものです。その道を歩かない方法を考えるのではなく、「どうすれば奴らが威張って歩けるか」という発想。その価値観の軸。この軸がブレてしまうと、発展はしないのです。「職員」といわれる人たちがいくら地域におべっかを使ったりし続けても、問題は解決にはつながらないのです。

「3年後には分かるから」と宣言してから2年。1年後が楽しみです。でもその楽しみは2年前から楽しみにしているものです。

長くなったけど、最近の事例でもう一つ。ある固定客のみを対象とした個人事業者の宣伝チラシの配布をうちの作業所が行っています。こうした依頼業者だけで、うちの作業所は両手で足りないほどの数を抱えています。この個人事業者との付き合いは2年近くになるでしょうか。今では「入って当たり前」の事業者の一つになっています。

ところがこの事業者から先日相談を受けました。実は固定客の減少で広告費出費が出せなくなっている。単価を下げてもらえないか、という相談。

うちはリピーター率が極めて高く、うちから別の業者に乗り換えたという例は少なくとも私は1件も知りません。ですから広告の効果というものには自信を持っています。配り方やエリア指定などあらゆる意味で他の業者には真似できない水準だと自負しているからです。しかしこの個人事業者さんの例でいえば、うちが宣伝チラシ配布を担当してからも、固定客が増えていないというのです。

その相談に乗ったうちの「職員」は、当初「単価を下げるしかないかなあ」と考えていたようです。気持ちは分かります。これだけ長く付き合っている業者、相手が困っているんだから何とかしてあげたい。そういう気持ちになるものです。でもここで先ほどの「価値観の軸」に戻って考えるならば、長期的にはそれは決していい判断にはなりません。まずこれまでの障害を持つ仲間たちの労働を「価値がなかったもの」として否定することにもなってしまいます。そして今後の彼らの労働の価値も(単価を下げるわけだから)下げてしまうことになるのです。すなわち軸のないターンになってしまうのです。

私は宿題を出しました。(すぐにヒントを与える悪い癖はありましたが・・・)

①なぜ反響が来なかったかの分析をすること。チラシの大きさ・中味、さらにいえば、この事業者のセールスポイントは何であり、それがこのチラシに反映されているのか、など。

②そのうえで、仲間たちにとってプラスになる方向で、この業者のプラスになる道を考えること。

③「固定客がつかなかったから単価を下げて」に対して、「固定客を3倍にしてあげるから単価を上げて」と答えられるような発想を持つこと。

こういう<発想の転換>を持つためには、障害を持つ仲間たちの仕事に対して我々がどう評価しているのか・何を大切に、何を軸として判断するのか、ということが大切なわけです。その軸にどっかりと体重をかけた上で、「どうすれば固定客を増やして上げられるだろうか」と構想することです。

仲間たちの仕事に大きな問題はなかったはずです。その信念があります。問題があったとすれば、彼らに仕事の段取りを指揮した我々の側にあるか、あるいはもっと前の段階にあるか、いずれかです。そう思えば簡単に単価を下げるという発想にはつながらないはずです。

前のブログでちょっと紹介した気もしますが、今彼はいろんな構想を考えているようですし、その軸は間違っていません。どんな答えを持ってきて、どんな解決をしてくれるのか、そしてその解決の先には障害を持つ仲間たちが輝いている絵があるのか、楽しみです。

今回の記事のタイトルは、「福祉の仕事は楽しくいこう」でした。楽しそうでしょ(笑)。でも大変なんですから。特に私のところで働いている人たちは、特に大変ですよ。

来てみます?きっと逃げ出したくなりますよ。最初のうちはね。でも誰も逃げないんですけどね。障害を持つ仲間たちのハートが刺さっちまいますからね。

やばいっ、オレ明後日講演しなきゃいけないのを忘れていた。準備ができていない。逃げ出したくなりました。仲間たちのところへ。

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