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2006年11月25日 (土)

ビラ男の一生

わが福祉作業所のメイン作業は、ビラ配りにある。いろいろな業者の宣伝チラシ、カタログその他の配布を1部○円で受けている。リピーター率(一度当所に仕事を頼んでくれた方が、そのままお得意先に発展する割合)はきわめて高い。それは一般の広告代理業者と比べても仕事の質が高いからだ。仕事の質が高いということは①ごまかさず、ミスも少ない。②期限をしっかり守る。③依頼者のニーズを先読みして、反響が出やすいような配り方ができる。④報告が細かく、正確である。⑤実際に配布した担当者(障害者)が自分の責任で自分の報告をする。…以上の点が依頼者の信頼を生んでいるのだ。

その結果、仕事は常に豊富にあり、福祉の世界としてはみんなそれなりに胸を張れる給料を手にしている。(一般就職の場合との差はまだまだあるが。)

 作業所の仲間たちの障害の種別や程度はさまざま。しかし障害のある無しやその程度で人の優劣は決まらない。うちの作業所の場合、ビラ配りに気合が入っているかどうかで仲間同士の尊敬の差が生まれる。ずっと走って配れる仲間は尊敬される。地図の読み方が上手ければ尊敬される。雨や雪でもガンガン飛んでいく根性があれば尊敬される。言葉がある人・無い人は関係ない。頭がいい悪いも関係ない。根性があれば尊敬される。

 それは障害のある無しに関係ないので、「職員」と「利用者」という区別も無い。「職員」として入ってきても、仲間たちから「気合が足りない」とレッテルを貼られれば、相手にもしてもらえない。言葉のない仲間から床に線を引かれ、「ここから先には入ってくるな」とジェスチャーで訴えられた「職員」もかつてはいた。「根性が足りない」と判断されたのだ。非常に分かりやすい世界だ。気合と根性だけが価値基準なのだ。

「職員」としてこの職場に入ってきて、まず仲間たちのこの価値基準・ルールを目の当たりにする。たいていの場合は、「根性なしとは思われたくないぞ」と気合を入れて頑張る。そしてやがて仲間たちから「お前、なかなかやるな」と認められるようになる。「職員」君もやりがいを感じ、この仕事にハマっていく。ビラ男の完成だ。事実、今年度「職員」として入ってきたTは、ビラ男として仲間たちから信頼され尊敬され、今では常に仲間たちの輪の中心にいる。仲間たちが帰ったあとも、何時間もビラを数えたり眺めたり、ビラにうっとりしている姿を見ると、ビラ男として尊敬されるその理由がわかるというものだ。終電時間までビラを眺めていても、彼はビラに飽きることはない。恋人と向き合うかのように彼は優しくビラに語りかけている。

ここまでは黙っていても仲間たちが鍛えてくれる。フワフワした新人を、気合の入ったビラ男に育て上げるまでは、障害を持つみんなの仕事だ。私の仕事はその先にある。みんなが育てたビラ男の視野を、どうやって広げていくか。ビラだけでなく、その作業所の将来展望、みんなの生活や生き方、その他さまざまな領域を幅広くケアできる人間に育てていくこと。それが私の仕事だ。

私は仲間たちが鍛えてくれた職員Tというビラ男の視野を広げるべく、「メール便」という作業を福祉の世界に委託したいというある企業の説明会に、ビラ男Tを行かせた。果たしてTの視野は広がってくるだろうか?

説明会後、Tから電話。非常に面白かったということと、もう少し自分の中で整理してみたいという内容。よしよし。「報告書を書くように」と指示。

翌日土曜日の夕方、Tからメール。「夕方までかかって、自分の考えをまとめてきたのか。えらい!」…そう思ってメールを読むと、「ピザーラ津田沼店、幕張4丁目1500部配り終えました」との内容!

ビラ男Tよ!私はゆっくりくつろいでいたのに、Tは今日もビラか!? 私の教育が行き届かないのか、それとも障害を持つ仲間たちの教育が行き渡っているのか・・・そう思ってパソコンを開くと、ちゃんと報告書ができていたではないか。しかも冷静かつ的確に判断されている。よかった。

このブログのせいで、Tがあちらこちらに顔を出すと、「パスポートの件で、遊んで来い!と怒られた人」とか「台湾でぼったくりにあった人」とかと、いらぬレッテルを貼られてしまうことがあるようだ。Tの名誉挽回とばかりにこのブログを書いてみたが、果たして名誉挽回になったかな?

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